そしてページを追いながら、時代は変わろうとも、男と女のマインドシップやスキンシップは、昔も今も言い尽くせない彩があることを思い知っています。「おまえさん」とか「おっかさん」という江戸弁漂う庶民ばなしがいいじゃないですか。東北は山形ご出身のお方とは思えません。作中のところどころに、出合い茶屋など、お遊びな場面もなくてはならない舞台で、そんな粋を必要としてますね。山本周五郎が硬派の庶民小節なら、藤沢さんは、やや世俗的な遊び人の世界にも通じた作風でしょうか。そんな浮いたやりとりに、自然と招かれていきます。
また機械があれば、藤沢劇場に出会えましょう。いい男が先を歩き、かわいい女があとからついてくる。現代の恋物語とはそぐいませんが、お江戸の窮屈な恋ばなしとして、肩入れしながらはまり込んでいます。